家族信託の受託者になれる人・なれない人|要件と責任を詳しく解説

家族信託の受託者になれる人・なれない人

家族信託を設計する際、最も重要な選択の一つが「受託者を誰にするか」です。受託者は親(委託者)から財産管理の権限を引き継ぎ、信託契約に従って不動産・預貯金などを管理・運用・処分する責任を担います。受託者の選定を誤ると、後々トラブルの原因になります。本記事では、受託者になれる条件と、選ぶ際のポイントを詳しく解説します。

受託者の法的要件

受託者になれない人(信託法の規定)

信託法第7条は「信託は、未成年者を受託者としてすることができない」と定めています。法律が受託者になれない人として明記しているのは、現在は未成年者だけです(出典:信託法 第7条(e-Gov法令検索))。

| なれない人 | 根拠 | |-----------|------| | 未成年者(18歳未満) | 信託法第7条 |

※成年年齢は2022年4月1日から18歳です(出典:民法 第4条(e-Gov法令検索)・法務省:民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について)。

※以前は成年被後見人・被保佐人も受託者になれないと定められていましたが、2019年の法改正(令和元年法律第37号)でこの制限は削除されました。ただし、受託者になった後に後見開始または保佐開始の審判を受けた場合は、信託契約に別段の定めがない限り受託者の任務は終了します(出典:信託法 第56条第1項(e-Gov法令検索))。古い解説記事には改正前の記述が残っていることがあるので注意してください。

この条件さえ満たせば、基本的には誰でも受託者になることができます。法律上は親族以外の第三者(友人・知人)も受託者になれます。ただし、信託の引受けを「営業として」行う場合は信託業法の免許が必要です(家族信託の受託者には不要)。

信託業の免許は不要

信託業法が免許の対象とする「信託業」は、信託の引受けを行う営業のことです。家族信託の受託者は、反復継続して不特定の人から信託を引き受ける営業を行うわけではないため、信託業法の免許は必要ありません。家族内での財産管理を目的とした受託者であれば、一般の個人でも問題ありません(出典:信託業法 第2条第1項・第3条(e-Gov法令検索))。

受託者に向いている人・向いていない人

向いている人の条件

法的に受託者になれるかどうかとは別に、「実際に適切に財産管理できるか」という観点も重要です。

受託者に向いている人の特徴

  1. 委託者(親)が信頼している人 受託者は信託財産(不動産・預貯金)を自分の名義で管理します。委託者との信頼関係が最も重要な基盤です。

  2. 財産管理の経験・知識がある(または学ぶ意欲がある) 不動産の賃貸管理・修繕対応・確定申告(不動産所得)など、実務的な知識が必要です。

  3. 長期的に責任を担える健康状態にある 委託者が認知症になった後、10年以上受託者として活動するケースも多いです。

  4. 他の相続人と良好な関係を保てる 他の相続人から「財産を勝手に動かしているのでは?」と疑われないよう、透明性を保ちながら管理できる人が理想的です。

  5. 居住地が委託者に比較的近い 不動産の管理・修繕対応・各種手続きには、実際に動ける距離感が重要です。

受託者に向いていない人

実務上、受託者として問題が生じやすい人

| 特徴 | リスク | |------|--------| | 借金・自己破産歴がある | 信託財産が差し押さえられるリスク | | 他の相続人と関係が悪い | 後々の紛争リスク | | 高齢・健康不安がある | 受託者が先に認知症になるリスク | | 海外在住・多忙で対応困難 | 実務対応が遅れるリスク | | 財産管理に無頓着 | 不適切な管理・使い込みのリスク |

借金がある人が受託者になるリスク

信託法では、受託者が破産手続開始の決定を受けても信託財産は破産財団に属さず、受託者自身の債権者は原則として信託財産を差し押さえられないと定められています(「信託財産の独立性」。出典:信託法 第23条第1項・第25条第1項(e-Gov法令検索))。ただし、実務上は受託者に多額の借金がある場合、信託財産と固有財産の分別管理が曖昧になりやすく、トラブルのリスクが高まります。

受託者の権限と責任

受託者として就任したら、以下の権限と義務が生じます。

受託者の主な権限

  • 信託不動産の売却・賃貸・修繕の実施
  • 信託口口座(銀行)の開設・管理・入出金
  • 信託財産に関する契約の締結
  • 信託不動産の登記申請

受託者の主な義務(信託法)

| 義務 | 内容 | 根拠 | |------|------|------| | 善管注意義務 | 善良な管理者の注意をもって信託事務を処理 | 信託法第29条第2項 | | 忠実義務 | 受益者のため忠実に信託事務を処理 | 信託法第30条 | | 分別管理義務 | 信託財産と固有財産を分別して管理(不動産は信託の登記) | 信託法第34条 | | 帳簿作成義務 | 信託財産の帳簿を作成し、毎年1回は貸借対照表・損益計算書等を作成。帳簿は作成日から10年間保存 | 信託法第37条 | | 報告義務 | 毎年の計算書類の内容を受益者に報告。委託者・受益者から求められれば信託事務の処理状況を報告 | 信託法第36条・第37条第3項 |

(各条文は e-Gov法令検索の信託法へのリンク)

受託者が義務に違反した場合のリスク

受託者が任務を怠って信託財産に損失を生じさせると、受益者から損失のてん補(損害の穴埋め)や原状回復を請求されます。忠実義務に違反して受託者自身が利益を得た場合は、その利益と同額の損失が信託財産に生じたものと推定されます(出典:信託法 第40条(e-Gov法令検索))。また、受託者の行為が詐欺・横領と判断されれば、刑事責任を問われることもあります。

受託者が複数でも良いか

一つの信託に対して複数の受託者(共同受託者)を設定することも可能です。

共同受託者のメリット

  • 一人に権限が集中せず、不正を防ぎやすい
  • 意思決定を複数人でチェックできる

共同受託者のデメリット

  • 信託事務の処理は原則として受託者の過半数で決めるため(受託者が2人なら実質的に双方の合意が必要)、迅速な対応が難しい。※保存行為は各受託者が単独でできる
  • 手続き上の手間が増える

(出典:信託法 第80条第1項・第2項(e-Gov法令検索))

実務上は、受託者を一人に絞り、「信託監督人」(受益者に代わって受託者を監督する人。信託契約で指定できる)を別途設定することで牽制する設計が一般的です(出典:信託法 第131条第1項(e-Gov法令検索))。

後継受託者の設定が重要

受託者の任務は、受託者の死亡、後見開始・保佐開始の審判、破産手続開始の決定などによって終了します(出典:信託法 第56条第1項(e-Gov法令検索))。こうした事態に備えて、「後継受託者」を信託契約に定めておくことを強くお勧めします。

例:
第1受託者:長男(主に財産管理を担当)
第2受託者(後継):長男の配偶者 または 次男

後継受託者の定めがないまま受託者が不在になると、委託者と受益者の合意で新しい受託者を選ぶ必要があり、合意できなければ裁判所に選任を申し立てることになります。その間、信託財産の管理は止まってしまいます(出典:信託法 第62条第1項・第4項(e-Gov法令検索))。

家族信託の受託者選定や設計のご相談は、家族信託の専門家相談窓口にお気軽にご連絡ください。

まとめ:受託者選びのポイント

家族信託の成否は受託者の選定に大きく左右されます。

受託者選定のチェックリスト

□ 成年(18歳以上)であること
□ 判断能力が十分にあること
□ 委託者(親)が心から信頼できること
□ 長期的に責任を担える健康状態にあること
□ 他の相続人から反発を受けにくいこと
□ 財産管理の実務をこなせること(または学ぶ意欲)
□ 借金・経済的トラブルがないこと
□ 後継受託者も決めておくこと

受託者選定に迷ったら、早めに司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。家族信託のご相談はこちらからどうぞ。


最終更新日:2026年10月

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